鹿教湯が静止する日
年末を迎え入れようとして、今日この日も独楽鼠のごとくせわしなく動く毎日。
しかし、人の動きの暖かさに比べ、外の空気はシーンと凍りついている。
朝には車に霜が降り、夜になれば道路は凍結する。
そして、ときおり吹く冷気を孕んだ一陣の風。
まるで春から秋の間に貯めていたストレスを爆発せんとばかりに、山の中を威烈な寒気が征服していく。
鹿教湯を慈悲もなく蹂躙していく様は、まるで古代マケドニア王国のイスカンダル(※1)のごとく……
…………。
あれ?
家のドアが凍って外に出られないでござる。
(溶かし作業中……)
と、朝からハリウッド映画のワンシーンのごとく、元気よく扉をぶち破ってきましたが、鹿教湯温泉の気温は現在、絶賛うなぎ下がり中です。
昨日なんかは、長野大学企画の鹿教湯温泉入り口のイルミネーション点灯式に、司会進行として参加させてもらったんですが、なにが一番辛いかって、鹿教湯の入り口って鹿教湯内で1、2を争うくらい寒いところなんですよ。(山の中とダムは除く)
日は当たりづらいし、そのくせ横は田んぼで広いから風は強いし。
反対のすぐ横にトンネルがありますが、そこから出たところは道路に氷が溶けずに残っていることが多いので、初見の方は注意です。
それに、持つマイクがビリビリに冷えていて。
そりゃあもう、冬場の鉄棒みたいな冷たさです。もはや氷です。
だから当然、指はかじかみ、セリフは噛み噛み、そしてトークは滑る滑る。
んっ?
後半はマイク関係ないだろ、って!?
はて? なんのことやら。
大人は時にズルいものなのサ!
そんな僕のトークはどうでもいいとして、無事にイルミネーションは完成!
鹿教湯温泉の入り口に、色とりどりに若々しい明かりが灯ります。
鹿教湯温泉の入口はもともと明かりが少なく、車で通る方に温泉地があるということに気づいてもらえないこともありました。
このイルミネーションがあれば、自然と視線が鹿教湯に注目し、足が向かうことでしょう!!
これを長野大学の学生諸君が企画、デザイン、設置したというのだから、やはり若い頃から善行をつむというのは立派な行為ですなぁ。
ありがとうございます! お礼に、記念の集合写真撮るよ―!!
いや、あの、別に失敗したわけじゃないんよ……。
うん、あれだよ。リテラシーに配慮した結果だよ。
ネットに顔が写った写真はダメだしさ……ハハハ……。
さて、そんな寒空の下ですが、多分にもれず、僕も働いていないわけではありません。
特に今は年末の氷灯ろうですね。その準備が欠かせません。
この氷灯ろうですが、そろそろ氷をつくる準備を始めないといけません。
氷自体は容器入れて、丸1日くらいでできるんですけど、なにせ数が多いので早めに準備をしとかないといけないんですよね。
そのため、今日はまず氷をつくるための容器を洗浄するところから始めました。
ついでに水漏れしていないかの点検。
水が氷になると膨張して金属を痛めることがあるのです。そのため、小さな亀裂が入ったりして水漏れを起こすことがあるんですよね。
この寒い中、水作業は流石にきついですが、途中で作業場の隣りにあるクアハウスの方から珈琲の差し入れをいただいたので、結構気持ちは楽になりました。
ちなみにこれが冷凍庫。
鍵は外側からしか開けれないので、遊びで絶対入ってはいけません!!
ジョン・ディクスン・カーの小説みたいな密室になっちゃうぞ!!(※2)
そして、氷灯ろうは氷を作ればそれで完成というわけではありません。
氷を地面の上においておけば、当然溶けてくるとツルツルと滑ってしまいます。
また、上の写真のように五台橋のような床が木でできたところに直接置いてしまうと、取り外す時や腐食によって、床を傷めてしまう可能性もあります。
そのため、下の土台作りもやっていかなくてはいけません。
氷灯ろうは全部で何百個という単位で置いていくので、この作業も簡単にはいきません。まあ、板自体は使いまわしなので、ビニールを張ったりする作業がほとんどなんですけどね。
こういった作業を何回か繰り返して、年末の点灯式までに氷灯ろうを完成させます。
もちろん僕だけではなく、地域の方全員であたるので、作業量も分担で済みます。
この時期の作業は、作業の難易度とか、量とか、時間とか関係なしに
「外が寒い」の一つだけですべての作業が面倒になっちゃうんですね。
こうも寒いと、外に出ることも少なくなり、部屋の中でこたつとストーブの前でゴロゴロする日々になりがちです。
しかし、ここは温泉地。
体を温める方法は、家の中だけにあらず。しかし、そのためにもやはり外に出なくてはいけないというジレンマと矛盾。
鹿教湯の温泉は一度入ると、結構体の熱が長続きするので、冬場には本当におすすめでなのですが……やっぱり、一度外に出るのはなぁ……。
※1イスカンダル
はるばる地球を離れ、放射能除去装置コスモクリーナーDを取りに行く惑星――ではなく、はるか古代の王様。世界史に明るい人以外でも、アレキサンダー大王といえばなんとなく聞いたことがあるはず。
威風堂々、勇猛果敢を具現化したような、凄い英雄でいわゆる理想の上司だったと云われていて、とにかく広大な土地を支配した。
今でもいろんな作品で、やたら登場しては味方になったり敵になったりしていたり、享年が30代前半だったりと働きすぎなので、ブラック企業の理想の上司ともいえる。
※2 ジョン・ディクスン・カー
ミステリー小説作家で密室殺人大好きおじさん。
写真はなかなかのいい男である。
でもミステリーファン以外からの知名度は、ドイルとかアガサに比べると若干低め。
ツイッターやってます。
興味があれば下からどうぞ!